旧帝大就活研究会
編纂手記

「無料配布→脅迫」型の構造分析 ── Webテスト解答集の受け渡しで、何が相手に渡るのか【27卒・28卒】

「Webテスト解答集」「ウェブテスト解答集」の無料配布は、27卒・28卒の就活シーズンのSNS上で恒常的に観測される。本研究会は前稿「Webテスト解答集」無料プレゼント企画とSNS詐欺の手口で、情報商材型の勧誘に共通する構造を整理した。本稿はさらに一歩進め、他のジャンルで公的に確認されている「無料配布→脅迫」型の手口と、解答集の受け渡しの構造を比較分析する。要旨を先に示す。解答集の無料受け渡しは、脅迫型の手口の前段構造(誘引と情報の先渡し)を形式上満たしており、したがって「事例が報じられていないこと」を安全性の根拠にすることはできない。

目次

  1. 「無料配布→脅迫」型の定義 ── 三段階の構造
  2. 実在例① 闇バイト勧誘 ── 警察庁が注意喚起する型
  3. 実在例② セクストーション ── 複数の県警が注意喚起する型
  4. Webテスト解答集の受け渡しへの当てはめ
  5. 反証可能性 ── 本研究会が確認できていないこと
  6. 構造からの帰結 ── 「先に渡す情報」を最小化する取引
  7. よくある質問

「無料配布→脅迫」型の定義 ── 三段階の構造

本稿で扱う型を、次の三段階で定義する。

第一段階(誘引)。無償または著しく好条件の提供を掲げ、相手の側から接触させる。

第二段階(先渡し)。受け取り手続きの過程で、後から回収できない情報や事実を先に提出させる。

第三段階(担保化)。提出済みの情報を担保に、金銭や行為の要求を継続する。

この型の要点は、第二段階までが被害者の目に「通常の受け渡し手続き」として映ることである。第三段階に至って初めて全体像が現れるが、その時点で先渡しした情報は回収できない。

実在例① 闇バイト勧誘 ── 警察庁が注意喚起する型

警察庁は公式サイトの「犯罪実行者募集の実態」で、SNS上の高額バイト等の募集に応じた者が、応募の過程で身分証画像や家族の情報といった個人情報を先に送らされ、離脱しようとすると本人や家族への危害を示唆して脅され、犯罪への関与を強いられる実態を注意喚起している。「好条件で誘引→個人情報を先に提出させる→それを材料に要求を継続する」という三段階が、公的機関の説明の中に揃って現れる型である。

実在例② セクストーション ── 複数の県警が注意喚起する型

セクストーションとは、性的な画像・動画を送らせた上で「ばらまく」などと脅迫し、金銭等を要求する手口であり、埼玉県警察をはじめ複数の県警が公式に注意喚起している。SNS上で親密な関係を装って接近し、画像を送信させる経緯が典型として示される。誘引の装いは闇バイトと大きく異なるが、①好意的な条件での誘引、②回収不能な情報の先渡し、③提出済み情報の担保化、という骨組みは同一である。異なる題材で同じ骨組みが独立に成立していること自体が、この型の汎用性を示している。

Webテスト解答集の受け渡しへの当てはめ

では、解答集の無料配布の受け渡しは、この型に照らしてどう見えるか。受け取る側が先に差し出すものを列挙する。

第一に、フォローとアカウントの紐付きである。就活用アカウントは本名・大学名・交友関係と接続していることが多い。第二に、DM・LINEという一対一の連絡経路と、やり取りの記録である。第三に、「無料配布の解答集を受け取った」という受領の事実そのものである。この事実は、就活生本人にとって公にされたくない性質を帯びやすい。

一方、配布する側について、Yahoo!ニュースの専門家による解説記事は、解答集の無料配布でフォロワーを集め、有料の商材やサロン等へ誘導する商流の存在を指摘している。無料配布が収益化の入り口として設計されうることは、既に公に指摘されている。

以上を型に当てはめると、解答集の無料受け渡しは第一段階と第二段階の構造を自然に満たす。第三段階へ転じるか否かは、配布者の意図のみに依存する。そして配布者側の参入障壁は低い。匿名アカウントと配布ファイルがあれば足り、身元の開示は要求されない。受け取る側は、善意の配布者と悪意の配布者を受け渡しの形式から識別できない。

反証可能性 ── 本研究会が確認できていないこと

分析の誠実さのため、反対側の事実を明記する。Webテスト解答集の配布を起点とする脅迫事例そのものは、本稿執筆時点で報道・公的注意喚起を確認できていない。本稿の主張は「事例がある」ではなく「構造が成立している」である。

ただし、事例が確認されていないことは安全性の根拠にならない。理由は二つある。第一に、型の成立に必要なのは悪意ある配布者の参入のみであり、参入障壁が低い以上、過去の不在は将来の不在を保証しない。第二に、仮に要求が生じた場合でも、受領の事実を明かしたくない心理が、被害の表面化を抑える方向に働きうる。

構造からの帰結 ── 「先に渡す情報」を最小化する取引

構造分析からの帰結は単純である。この型のリスクは「先に渡す情報の量」と「相手の身元の不明さ」の掛け合わせで決まる。ゆえに合理的なのは、先に渡す情報を最小化し、かつ売り手の側が身元を開示している取引を選ぶことである。

特定商取引法に基づく表記を備えた正規販売では、買い手が差し出すのはメールアドレスと正規決済のみであり、事業者情報を開示するのは売り手の側である。フォローもDMもLINEも要らない。無料配布の受け渡しとは、情報の非対称性の向きが逆転する。本研究会が頒布する解答集(4,500円)もこの形式に拠る。価格の妥当性の検討は相場と適正価格の分析に、SNS上の勧誘の型の整理は前稿に譲る。判断の基準は有償か無償かではない。受け渡しの構造が、後から相手に握られるものを残すかどうかである。

よくある質問

Q. SNSの解答集無料配布は、すべて脅迫につながるのか

そうは言えないし、本稿もそう主張しない。指摘したのは、受け渡しの形式が脅迫型の手口の前段と一致しており、善意か悪意かを形式から識別できない、という構造上の事実である。

Q. すでにDMやLINEで受け取ってしまった場合はどうすればよいか

受け取った事実だけで直ちに被害が生じるわけではない。今後、金銭や追加の個人情報の要求があっても応じず、やり取りの記録を保全した上で、警察相談専用電話#9110や消費者ホットライン188に相談されたい。要求に一度応じることは、担保の追加提出に等しい。

Q. 正規販売なら安全と言い切れるのか

言い切れない。いかなる取引も無リスクではない。ただし、先に渡す情報が最小で、身元を開示しているのが売り手の側であるという二点により、本稿で定義した型の第二段階が成立しにくいという構造上の差は指摘できる。

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